2024年4月8日(月)アメリカ合衆国で皆既日食を観察しに行ったとき、日食観察用のグラスが入手できなかったときのためにピンホール観察器(プロジェクター)を作って持っていきました。
このページではピンホール観察器の作り方と、実際に使って撮影した太陽の写真やメモを紹介します。
目次
ピンホール観察器とは
ピンホール観察器は、その名のとおりピンホール(小さい穴)を使って太陽を観察する道具です。
下の図のように、小さな穴がレンズのような役割をして太陽の形を反対側の紙に映し出します。太陽を直接見るのは失明の危険がある上に、まぶしすぎて太陽の形はわかりません。ピンホールを通した先の紙の上には太陽の形の円形が映ります。このページの下にも実際の写真があるのでご覧ください。
図:ピンホール観察器の原理
太陽光線は平行だから上の図はおかしいのでは?と思う方もいるかもしれません。太陽光線自体は平行ですが、太陽は視直径が約0.5° あるので、ピンホールを通すと上の図のように太陽の上端・下端の方向に明確な違いが出ます。そのため、上の図のように太陽の「像」(形)が紙の上に投影されます。したがって、ピンホールの穴が大きすぎると上の図のようにならないため太陽の形を観察することはできません。
そして図のとおり、紙に投影される太陽の形は上下左右が逆になります。ただし、観察する向きによって日食時に欠けて見える部分が変わるので注意が必要です。詳しくは後述の「実際の観察例(写真)」で説明しています。
太陽が欠けていく様子を単純に観察したいだけの場合は、深く考えなくても大丈夫です。
国立天文台のウェブサイトでも紹介されています。
日食を観察する方法(国立天文台)
余談ですが、私がこのプロジェクターの存在を知ったのは、甥っ子と一緒に見ていた「おさるのジョージ」の「太陽がマッくら!」というジョージが皆既日食を見に行くお話でした。
おさるのジョージ(公式)シーズン12
作り方
作り方はとても簡単です。
(1)適当な大きさの箱を用意します。
原理的にはどのような箱でも良いのですが、両目で観察しやすいのは外国で売っているような 720 g とか 1 kg とかの大きなコーンフレークの箱らしいです。日本で売っているコーンフレークのサイズだと片目だけで観察することになるかと思います。写真撮影にはちょうど良いかもしれません。
なお当サイトの管理人はコーンフレークを食べないのでビールの箱で作ってみました。
(2)白紙を用意します。下の図のように白紙に箱の底と同じ大きさになるような線を引き、それを切り取ります。
(3)箱の片方を開き、切り取った白紙を箱の底に敷きます。こうすることで太陽の形が観察しやすくなります。
実際に白紙を箱の底に敷いてみた様子です。
(4)下の図のように、開いた方の箱の底を赤点線に沿って切り取り、2つの窓ができるようにします。
(5)箱の片方の窓をすっぽりおおうことができる大きさのアルミホイルを用意します。そのアルミホイルを新聞紙など不要な紙の上に置き、真ん中にキリや針などで小さな穴をあけます。
穴が小さいと、観察時の像の輪郭が明瞭になる代わりに全体的に暗くなります。穴が大きいと、像が明るくなる代わりに像の輪郭がぼやけます。カメラのピントと同じです。どのくらいの穴の大きさが最適かは作る箱の大きさや観察時の条件(晴れているか曇りか)にもよるので、複数作っておくといいかもしれません。
管理人が作ったものです。真ん中の小さな穴がピンホールになります。できるだけきれいな円形になるのが望ましいです。
(6)穴をあけたアルミホイルを、箱の片方の窓にかぶせてセロハンテープなどで止めます。
これで完成です。
実際に作ったピンホール観察器です。コーンフレークを食べないのでビールの箱で作りました。
飛行機の手荷物のカバンに入れて運びたかったので、少し工夫して折りたためるようにしました。A4より少し大きいサイズです。穴を開けたアルミホイルはクリアファイルに入れて持っていきました。
使い方
太陽を背にして、片方の窓から箱の中をのぞき込みながら、アルミホイルの穴(ピンホール)を通して太陽光が箱の中に入るように体の向きや箱の傾きを調整して使います。
実際の観察例(写真)
ピンホール観察器が完成したら、早速天気のよい日に太陽の観察をしてみましょう。
この写真は、日食ではない少し曇りの日にピンホール観察器を使って撮影しました。真ん中の明るい円形が太陽ですが、周囲にあるもやみたいな部分は、太陽の周りにかかっていた雲です。太陽の周りの雲まで観察できて驚きました。
以下、2024年4月8日にアメリカ合衆国オハイオ州で皆既日食を観察しに行ったときに撮影したものです。(詳しくはこちら。)
日食が始まる前の太陽です。きれいな円形です。うっすらとした高層雲しかなかったため、太陽の形だけがはっきり映し出されています。
日食が始まって約45分ほど経ったときの太陽の様子です。上の写真は少し明るさの調整に失敗してしまい、実際の太陽の形より太った像になってしまいましたが、それでも太陽の形が欠けているのがはっきりわかります。
上で説明したように、太陽の「像」(観察器の中の太陽の姿)は実際に見上げたときにみる太陽と上下左右が逆になります。ただし、これには注意が必要です。
上の写真は、日食観察用のサングラスを通して撮影した太陽です。太陽の右下が月に隠れて欠けて見えます。すぐ上の観察器の写真と比べると、上下は逆になっていますが、左右は逆になっていません。
これは、日食観察用のサングラスを使った場合と、ピンホール観察器を使った場合とで、観察する人の向きが異なるためです。結論からいうと、太陽を直接観察した場合と比べると、上下は逆になりますが、左右は同じ方向が欠けて見えます。
サングラスを使った場合は直接太陽を見ますが、ピンホールを通した太陽の像は「ピンホール観察器とは」に書いたとおり、上下左右が逆になります。そのため、下の図の A の人の位置から像を見ることができたとすると、太陽の像は直接見た場合と上下左右が逆に見えます。しかし、実際には A の人は箱の底しか見ることができません。
ピンホール観察器では図の B の人のように、太陽を背にして観察します。そのため、A の人から見た太陽の像の左右逆の像が見えます。そのため、この観察器を使った場合、直接観察した太陽と比べると上下は逆、左右は同じ向きの太陽の像が見えます。上の2つの写真のとおりです。
この写真は日食が始まって約1時間経過したときの様子です。太陽が三日月のようになっています。
上の写真は皆既日食が終了して約15分ほど、太陽が徐々に満ちていくときの写真です。
皆既日食から約30分ほどの様子です。
この写真も明るさの調整に少し失敗して、像がにじんで写っています。太陽の満ち欠けで像の明るさが変わるので、写真撮影時はピントと同時に明るさの調整も必要だと痛感しました。
皆既日食中はピンホール観察器は使えません。太陽が完全に月に隠れてしまうからです。日食観察用のメガネも同じです。
なので、このピンホール観察器(日食観察用のメガネ)は皆既日食そのものを観察するというよりは、皆既日食になる前後の部分的に欠けていく太陽の様子を観察する道具になります。
部分日食では、肉眼では確認することのできない欠けた太陽を観察することができるため、十分にその役割を果たしてくれます。
観察時に役立つメモ
実際にピンホール観察器を持っていって気付いたメモです。
- 穴を開けたアルミホイルは、念のため予備を持っていくと安心です。屋外だと風で箱が飛ばされてピンホールがだめになってしまうこともありえるからです。アルミホイルは、クリアファイルにはさんで折りたたまにように注意して持って行けば傷がつかずに使えます。
- 緊急補修用に穴が空いていないアルミホイルとセロハンテープテープも持っていくとよいです。万が一アルミホイルに穴が空いてしまったり、箱の隙間から差し込む光が邪魔なときにふさぐことができます。
現地に持っていったピンホール観察器です。箱の隙間から差し込む光が気になったり、風で飛ばされてアルミホイルに不要な穴が開いたりと、現地で問題が起きることは多々あります。補修用具があると安心です。
- 太陽の像を写真撮影するときは、太陽光が明るいうちにデジタルカメラ等のピントの調整をしておくといいです。
- 写真のとおり、太陽の満ち欠けで像の明るさがかなり変わります。撮影時は明るさの調整にも留意しましょう。
余談:みんなでワイワイ観察する方法
あとで知ったのですが、下のリンク先のように影になる暗い場所があれば箱を使わなくてもピンホールを通して太陽の形を観察できるようです。
Make a Projector to Safely See a Solar Eclipse
しかもこの方が複数人で一緒に観察したり、写真を撮って記録するには適していますね。テントなどがあれば簡単にセッティングできそうです。
生きているうちに次の機会があれば試してみたいです。