計算尺の目盛りの種類
計算尺は目盛りで計算を行う道具です。そのため、計算の種類によって様々な種類の目盛りを使うことになります。
どの計算でどの目盛りを使うか、ということはその都度解説していきますが、ここでは主要な目盛りについてひと通り紹介したいと思います。
これから使おうとしている計算尺でどのような計算ができるかを知るお役に立てればと思います。
また、計算尺を新たに購入する際の参考にもなるかもしれません。
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計算尺の目盛りの種類はアルファベットで表記されています。このアルファベットは通常、目盛りの左端か基線のすぐそばに書いてあります。
下の画像のように、棒形の計算尺であれば目盛り左端の左隣に、円形計算尺であれば基線の近傍にアルファベットが書いてあります。これが目盛りの種類を表しています。
以下で紹介する目盛りすべてが一つの計算尺に振られているわけではありません。目盛りがあったりなかったりします。
目盛りがないものについては、別の目盛りを使って計算する方法もありますので、その方法は随時紹介します。
- C 尺とD 尺
計算尺で最も基本的な目盛りです。どちらもまったく同じ対数目盛で左端が1 の基線、右端が10 の基線になっています。
C 尺は内尺(滑尺)に、D 尺は外尺(固定尺)に目盛りが振られています。
掛け算、割り算のほか、基本的にほぼすべての計算で使用します。
- CI 尺とDI 尺
計算尺で最も基本的な目盛りです。それぞれC 尺、D 尺とは逆に目盛りが振られていて、左端が10の基線、右端が1の基線になっています。”I” は “Inverse”(逆、反対)の意味でそれぞれC 尺とD 尺の逆に目盛りが振られていることを意味します。
CI 尺は内尺(滑尺)に、DI 尺は外尺(固定尺)に目盛りが振られています。
掛け算、割り算のほか基本的な計算に使います。
- CF 尺、CIF 尺、DF 尺
棒形計算尺で目外れ(基線が目盛りから外れて計算結果が示されないこと)が起きた場合に使う目盛りです。C 尺等と同じ対数目盛りなのですが、左端がそれぞれの対数目盛りで1 から 10 の中心である約3.16(正確には \( \sqrt{10} \) )から始まり、中央に基線「1」があります。”F” は “Fold”(折りたたむ、折り返す)の意味でそれぞれC 尺、CI 尺、D 尺の目盛りが半分ずらされていることを意味します。
CF 尺、CIF 尺は内尺(滑尺)に、DF 尺は外尺(固定尺)に目盛りが振られています。また、目外れしない円形計算尺には存在しません。
掛け算、割り算ほか基本的な計算に使います。
- A 尺とB 尺
左端が1、中央が10、右端が100となるように2つの対数目盛りを並べた目盛りです。A 尺、B 尺どちらも目盛りの振り方は同じです。
A 尺は外尺(固定尺)に、B 尺は内尺(滑尺)に目盛りが振られています。
二乗、二乗根(ルート)の計算で使用します。
- K 尺
左端が1、左から3分の1の点が10、右から3分の1の点が100、右端が1000となるように3つの対数目盛りを並べた目盛りです。通常は外尺(固定尺)に目盛りが振られています。
三乗、三乗根の計算で使用します。
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- S 尺、SI 尺
三角関数のうち正弦(sin)、余弦(cos)の計算に使用します。
SI 尺はS 尺の逆に目盛りが振られているもの(”I” は Inverse の意味)で、通常はS 尺かSI 尺のどちらか一方が内尺(滑尺)にあります。
- T1 尺、T2 尺、TI1 尺、TI2 尺
三角関数のうち正接(tan)の計算に使用します。
TI1 尺とTI2 尺はそれぞれT1 尺、T2尺の逆に目盛りが振られているもの(”I” は Inverse の意味)で、通常はT1 尺・T2 尺かTI1 尺・TI2尺のどちらかの組み合わせが内尺(滑尺)にあります。
T1 尺(TI1 尺)は角度45° 以下、T2 尺(TI2 尺)は角度45° 以上で使用します。
- ST 尺
三角関数のうち 6° 以下の微小角度での sin、tan の計算に使用します。(cos の場合 84° 以上。)
微小角度において sin θ ≃ tan θ という近似を用いるので、sin、tan どちらも同じST 尺で計算します。
- L 尺
対数目盛ではなく、10進数で等分した目盛りです。
対数(log)の計算で使用します。
- LL 尺(LL1 尺、LL2 尺、LL3 尺)
対数目盛をさらに対数で振りなおした目盛りです。Log Log が名前の由来で「ログログ尺」とも言うそうです。
指数の計算で使用します。
計算尺の基本操作
計算尺での計算では、カーソルと内尺を動かすことになります。
カーソルと内尺の動かし方は、正確に目盛りを合わせることができるのであれば、基本的にどのような動かし方でも問題ありません。
なので、以下の操作方法については参考までに。
- カーソルの操作例
・・・カーソルを左に動かし一定の目盛り線で止める
- 左手を計算尺の左側に置く。
- 右手親指の爪先でカーソル右下の角を押してカーソルを左に動かす。
- 一定の目盛り線まで来たところで、左手親指の爪先をカーソル左下の角にあてる。
- 両方の親指でカーソルを軽く押し力の釣り合いを保ちながら、目的の目盛り線に正しく合わせる。
左右の指で軽く押しながらカーソルを操作することで正確な位置にカーソル線を合わせることができます。
円形計算尺の場合も、人差し指で左右から軽く押しながらカーソルを操作することで、正確にカーソル線を合わせることができます。
内尺を動かすときも、片方から押すだけよりも、目的の目盛り付近で両方の手で押しながら微調整することで、正確に目盛りを合わせることができます。
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計算尺の「相対誤差」
計算尺は目盛りを使った計算機です。そして、上記のようにカーソルや内尺を動かして計算をします。
したがって、目盛りを読むときの読み取り誤差や、内尺の操作による誤差がどうしても生じてしまいます。計算尺を使った実際の計算では、内尺を不必要に動かさないような工夫をしますが、それでもわずかながら誤差が生じてしまいます。これは計算尺という計算機の特性上、避けられないことです。
そのため、実際の計算尺の計算では、次の相対誤差を認めることにします。
これは、例えば 2 × 3 = 6 という計算であれば、その答の誤差が 6 × ±0.0028 、すなわち約5.98~約6.02 の範囲を正答だと見なす、ということです。
この誤差がどういう意味を持つのか、パッとわかりにくいという方も多いかもしれません。
少しだけ具体化してみると、計算尺を使って何かの機械や建物等の設計計算をしたときに、その計算結果には上記の誤差を含むということです。なので、この計算上の誤差を考慮した上で、例えば安全に余裕を見越した設計をする必要がある、ということです。1970年頃よりも前には実際に計算尺を使って様々な設計計算が行われていたので、計算尺の計算結果に対する誤差を把握しておくことはとても大切でした。
勘違いしていただきたくないのは、だから計算尺は不正確で役に立たない道具だと思われてしまうことです。
たくさんの数の掛け算と割り算を繰り返して誤差が拡大してしまうこと自体は、有効数字が12桁まで計算できるような電卓でも一般に起こります。(もちろん、値の大小はありますが。)
大切なのは、計算尺であれその他の道具であれ、その特性を知った上で正しく使う努力をすることです。
計算尺は目盛りを使って計算する道具なので、目盛りの読み取りや目盛りの操作によって誤差が大きくなってしまう可能性があることを覚えておきましょう。
計算尺に関する記事一覧
当サイトで紹介している計算尺の使い方に関する記事一覧は、カテゴリーの「計算尺 / Slide rule」のほか「計算尺の使い方」まとめページでご覧いただけます。
(2020年2月5日 更新)
(2020年8月20日 一部修正)
役にたちました