「目外れ」する場合の掛け算の方法 【計算尺の使い方5】

「計算尺の使い方」まとめ

標線法で起きる「目外れ」について

掛け算の計算方法には「内尺法」と「標線法」があることを紹介しました。
ここで注意しなくてはならないのは、標線法では「目外れ」という、基線が目盛りから外れて計算結果が示されないことが起きる場合があります。

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具体的な例として、2 × 6 を標線法で計算してみましょう。

(1)使う目盛りは外尺の「D 尺」と内尺の「C 尺」です。

(2)2 × 6 を計算するので、D 尺の「2」にカーソル線を合わせます。

(3)C 尺の基線である「1」とカーソル線が合うように内尺を動かします。

(4)2 × 6 を計算するので、C 尺の「6」にカーソル線を合わせると、カーソル線がD 尺上に答えを示すはずですが・・・一般的な計算尺ではD 尺 の目盛りが外れてしまい、答がわかりません。これが「目外れ」です。
円形計算尺では目外れが起きないので、答の「12」(1.2)を示します。

以上の例のように、一般的な計算尺で標線法による計算をすると、答が出ないことがあります。

目外れになってしまう場合の答の求め方

(1)基線を置き換える
「C 尺」の基線は左右にあります。左基線は「1」、右基線は「10」でした。
これを入れ替えることで計算結果を得ることができます。

2 × 6 の例の場合、D 尺の「2」とC 尺の左基線「1」とを合わせると、目外れしてしまいました。

これを、D 尺の「2」とC 尺の右基線「10」が合うようにします。

この場合、目外れせずに答の「12」(1.2)が得られます。

計算尺の計算結果の桁は「位取り」によって別に計算をして決めるので、実は左基線の「1」 と右基線の「10」 は全く同じ意味を持ちます。円形計算尺ではこの基線が左右でつながっているので、目外れが起きません。

(2)F の付く尺を使う
基線を置き換えればどんな場合でも標線法の計算ができますが、基線を置き換える操作は手間です。また、内尺を動かすとそれによる誤差が生じてしまうので、内尺はできるだけ動かさないのが望ましいです。
そのため、一般的な計算尺の多くには、目外れをした場合に使う「F」の付く目盛りがあります。これを使って答を得ることができます。

今回の計算では外尺の「D 尺」と内尺の「C 尺」を使ったので、目外れをした場合は外尺の「DF 尺」と内尺の「CF 尺」を使います。

C 尺とCF 尺、D 尺とDF 尺はそれぞれが同じ目盛りとして対応しています。
2 × 6 の例では、C 尺の「6」が目外れしてしまった場合、対応している「CF 尺」の「6」にカーソル線を合わせます。この場合、答は「DF 尺」上に出てきます。

このように、内尺を動かさなくてもCF 尺とDF 尺を使うことで目外れした部分の計算ができます。

標線法では左右どちらの基線を使うかに気を付ける

「F」の付く目盛りを使うことで、目外れした場合でも答を出せることがわかりました。
しかし、例えば 7 の倍数を計算しようとして、標線法で D 尺の「7」にC 尺の左基線「1」を合わせてみると次の画像のようになります。

これではすぐに目外れしてしまうだけでなく、CF 尺とDF 尺も大部分が目外れしてしまい、ほとんど計算ができないことがわかると思います。

このような場合は、そもそもD 尺の「7」にC 尺の右基線「10」を合わせなければなりません。

このようにすれば、C 尺とD 尺でほとんどの掛け算ができますし、わずかに目外れしてしまう部分もCF 尺とDF 尺を使って計算ができます。

「計算尺の目盛りと基本操作」でも少し触れていますが、CF 尺とDF 尺は、対数目盛の1 から10 の中央にあたる約3.16(正確には \( \sqrt{10} \) )から左端の目盛りが始まっています。そのため、内尺を計算尺全体の半分以上動かしてしまうと、CF 尺とDF 尺も目外れを起こしてしまいます。

これを防ぐためには、D 尺の3.1よりも小さい値にC 尺の基線を合わせるときは左基線「1」を、3.1 よりも大きい値にC 尺の基線を合わせるときは右基線「10」を合わせるようにします。

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計算例1 0.172 × 0.856

(1)使う目盛りは外尺の「D 尺」と内尺の「C 尺」です。

(2)D 尺の「1.72」にカーソル線を合わせます。

(3)C 尺の(左)基線である「1」とカーソル線が合うように内尺を動かします。

(4)C 尺の「8.56」にカーソル線を合わせます。円形計算尺では、カーソル線がD 尺上に答の「1.472」を示します。
一般的な計算尺では目外れしてしまうので、CF 尺の「8.56」にカーソル線を合わせ、DF 尺上に答の「1.472」が得られます。

(5)位取りをします。
概算で位取りをする場合、0.172 → 0.2、0.856 → 1 として \(0.2 \times 1 = 0.2 \) となります。
計算尺上の数値の答は「1.472」だったので、この計算の答は「0.1472」となります。

10の指数を使って位取りをする場合、 \(0.172 → 1.72 \times 10^{-1} \)、 \(0.856 → 8.56 \times 10^{-1} \) なので、 \(1.72 \times 8.56 \times 10^{-1-1}  = 1.72 \times 8.56 \times 10^{-2} \) となります。ここで \(2 \times 9\ = 18 \) なので、数値同士の掛け算の結果も10よりも大きくなることから、最終的な計算結果の桁は \(10^{-2} \times 10 = 10^{-1} \) となることがわかります。
計算尺上の数値の答は「1.472」だったので、この計算の答は「 \(1.472 \times10^{-1} = 0.1472\) 」となります。

計算例2 4230 × 161

(1)使う目盛りは外尺の「D 尺」と内尺の「C 尺」です。

(2)D 尺の「4.23」にカーソル線を合わせます。

(3)C 尺の(右)基線である「10」とカーソル線が合うように内尺を動かします。

(4)C 尺の「1.61」にカーソル線を合わせます。円形計算尺では、カーソル線がD 尺上に答の「6.81」を示します。
一般的な計算尺では目外れしてしまうので、CF 尺の「1.61」にカーソル線を合わせ、DF 尺上に答の「6.81」が得られます。

(5)位取りをします。
概算で位取りをする場合、4 230 → 4 000、161 → 200 として \(4000 \times 200 = 800000 \) となります。
計算尺上の数値の答は「6.81」だったので、この計算の答は「681 000」となります。

10の指数を使って位取りをする場合、 \(4 230 → 4.230 \times 10^{3} \)、 \(161 → 1.61 \times 10^{2} \) なので、 \(4.230 \times 1.61 \times 10^{3+2}  = 4.230 \times 1.61 \times 10^{5} \) となります。したがって、最終的な計算結果の桁は \(10^{5} \) となります。
計算尺上の数値の答は「6.81」だったので、この計算の答は「 \(6.81 \times10^{5} = 681 000\) 」となります。

標線法の特徴を生かした計算をする

標線法は、同じ数に対して異なる数値を掛ける計算を同時にたくさん行いたい場合、例えば3 × 1.7、3 × 4.2、3 × 5.7、3 × 8.9・・・のような時にとても便利です。電卓でいうと「× ×」を押したときと同じ効果が得られます。

一方で、目外れが起きてしまう場合もあるので面倒に思われる方もいらっしゃるかと思います。
2つの数だけを掛けるのであれば、目外れが起こらない内尺法で計算する方が面倒ではありません。一方で、3つ以上の数を掛けたり割ったりするときは、内尺法と標線法を組み合わせて計算することで計算を迅速かつ正確に(誤差を少なく)行うことができます。

標線法での計算の特徴を押さえて上手に計算していきましょう。

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