計算尺での三角関数計算に関する予備知識 【計算尺の使い方22】

scales of a slide rule/計算尺の目盛り


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「計算尺の使い方」まとめ

計算尺での三角関数計算

当ウェブサイトの管理人はその具体的な方法を理解できていませんが、そろばんでも二乗根や三乗根を計算する方法があるようです。そのため、今のような電卓が無かった時代でも、二乗根や三乗根の計算は計算尺でなくても計算する方法があったようです。

しかし三角関数の計算は、そろばんではできません。
関数電卓やコンピューターが無かった時代、予め計算結果が記載された「三角関数表」を使って具体的な数値を調べるか、計算尺を使うことでしか三角関数の計算はできなかったようです。
三角関数の計算ができることこそ、計算尺の強みの一つだと思います。

ここでは計算尺に直接触れる機会が少ない方も想定して、最初から sin、cos 等の具体的な計算方法を解説する前に、三角関数計算で使用する計算尺の目盛り等について解説いたします。

使う目盛りと目盛りの振り方について

三角関数の計算では「S 尺」、「T1 尺」、「T2 尺」、「ST 尺」を使います。

S 尺
「S 尺」は \( \sin 6^\circ \) から \( \sin 90^\circ \) までの計算で使う目盛りです。
計算尺では \( \cos \) の計算も \( \cos \theta = \sin (90^\circ – \theta ) \) の公式等を使って「S 尺」で行います。

T1 尺とT2 尺
「T1 尺」「T2 尺」は \( \tan \) の計算で使う目盛りです。
「T1 尺」は \( \tan 6^\circ \) から \( \tan 45^\circ \) まで、「T2 尺」は \( \tan 45^\circ \) から \( \tan 84^\circ \) までの計算で使います。

ST 尺
「ST 尺」は \(6^\circ\) 未満の \( \sin \) と \( \tan \) の計算で使う目盛りです。
\(6^\circ\) 未満の微小角度では \( \sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta \) ラジアン であることを用いています。

目盛りの振り方
日本製の計算尺では、三角関数の目盛りは度数(度、分)で振られていることが多いです。

つまり、\( \sin 10.5^\circ \) は \( \sin 10^\circ 30′ \)、\( \tan 35.25^\circ \) は \( \tan 35^\circ 15′ \) というように分、秒に直して計算する必要があります。

外国製の計算尺では\( 1^\circ \) 未満の目盛りを小数点で振っているものも多いです。
計算を始める前に、ご自身がお使いになる計算尺の目盛りの振り方を確認しておきましょう。

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S 尺とSI 尺、T 尺とTI 尺の入れ替えについて

計算尺によっては「S 尺」の代わりに「SI 尺」、「T1 尺」の代わりに「TI1 尺」しかないものもあるかと思います。当サイト管理人の手元にあるヘンミ計算尺P 253 は「S 尺」等がなく「SI 尺」等しかありませんでした。

「I」 の文字のつく目盛りは、目盛りの振り方が左右逆になっています。既に「掛け算のやり方」等で紹介した「CI 尺」も「C 尺」と左右逆に目盛りが振られたものでした。

そのため、一般的な計算尺では次の写真のように内尺をひっくり返して入れることで、「SI 尺」を「S 尺」として、「TI 尺」を「T 尺」として使うことができます。

目盛りに振られている数字が逆さまになってしまいますが、計算自体は問題なく行えます。
当サイトで計算方法を紹介するにあたり、「S 尺」と「SI 尺」の場合をそれぞれ別に解説するのはかなり大変ですので、不慣れな方はこの方法で「S 尺」と「SI 尺」等を入れ替えて練習していただければと思います。

また、この方法は他の目盛りでも使えます。計算の都合上、二乗・二乗根の計算で使う「B 尺」を「BI 尺」として使いたい場合等にも便利です。

三角関数の位取りについて

三角関数の位取りは、ほぼ覚えるしかありません。といっても \( \sin\) と \( \cos\) は0 から1 の間にしかなりませんし、\( \tan\) も \(84^\circ\) を超えるまでは10 を上回る数値が出てくることはありません。
計算尺で計算するときの実用上は、以下を覚えておけば位取りは十分できます。

三角関数 sin の位取りについて
・ST 尺を使った場合、角度 \(6^\circ\) 付近を除いて \( \sin \theta\) は0.01 の位。
・角度\( \theta \) が \(6^\circ\) 以上の場合、\( \sin \theta\) は必ず0.1 の位。
・\( \sin 90^\circ = 1\)

三角関数 tan の位取りについて
・ST 尺を使った場合、角度 \(6^\circ\) 付近を除いて \( \tan \theta\) は0.01 の位。
・角度\( \theta \) が \(6^\circ ~ 45^\circ \) の場合、\( \tan \theta\) は必ず0.1 の位。
・角度\( \theta \) が \(45^\circ ~ 84^\circ \) の場合、\( \tan \theta\) は必ず1 の位。
・角度\( \theta \) が \(89^\circ \) を超えなければ、\( \tan \theta\) は必ず100未満。

角度 \(6^\circ\) 以下の三角関数 sin と tan の位取りについて
\(6^\circ \) 以下の位取りについては次のような概算方法があります。「角度が6°以下の sin と tan の計算」で紹介していますゲージマークを使った計算では特に役立ちます。

・ \( \theta^\circ \approx 0.02 \times \theta \)
・ \( \theta ‘  \approx 0.0003 \times \theta \)
・ \( \theta ” \approx 0.000005 \times \theta \)

参考までに、\( \sin\) と\( \tan\) について角度に対する数値を関数電卓で計算して以下の表にまとめてみました。

\(\theta\) \(\sin \theta\) 答の10の指数
0’21” ~ 3’26” 0.00010~0.00099 -4
3’27” ~ 34’22” 0.00100~0.00999 -3
\(34’23” ~ 5^\circ 44’21” \) 0.01000~0.09999 -2
\(5^\circ 44’22” ~ 89^\circ 59’59” \) 0.10000~0.99999 -1
\(\theta\) \(\tan \theta\) 答の10の指数
0’21” ~ 3’26” 0.00010~0.00099 -4
3’27” ~ 34’22” 0.00100~0.00999 -3
\(34’23” ~ 5^\circ 42’38” \) 0.01000~0.09999 -2
\(5^\circ 42’39” ~ 44^\circ 59’59” \) 0.10000~0.99999 -1
\(45^\circ ~ 84^\circ 17’21” \) 1.000~9.999 0
\(84^\circ 17’21” ~ 89^\circ 25’37” \) 10.00~99.97 1
\(89^\circ 25’38” ~ 89^\circ 56’33” \) 100.0~996.4 2

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三角関数の計算で使えるゲージマークについて

日本の計算尺にはC 尺またはD 尺に\( \rho^\circ \)、\( \rho ‘ \)、\( \rho ” \) という印(ゲージマーク)がついた計算尺が多いです。

このゲージマークは次のような意味があります。

\( \rho^\circ \) ・・・1ラジアン \( \approx 57.296^\circ \) より、57.296(有効数字で 5.7296)につけた印。
\( \rho ‘ \) ・・・1ラジアン \( \approx 3437.75’ \) より、3437.75(有効数字で 3.43775)につけた印。
\( \rho ‘’ \) ・・・1ラジアン \( \approx 206265’ \) より、206265(有効数字で 2.06265)につけた印。

このゲージマークを使うことで、\(6^\circ \) 未満の微小角度の\( \sin \) と\( \tan \) の計算ができます。ST 尺を使うよりも正確に計算できる場合も多いので、ゲージマークは付いていてもST 尺がない、という計算尺もあります。
具体的な使用方法については、「角度が6°以下の sin と tan の計算」で紹介しています。

※「日本の計算尺には」と書きましたが、私の手元にありますドイツ製の計算尺や過去に見たアメリカで使用されていた計算尺にはこのゲージマークが存在しませんでした。もしかしたら日本以外の計算尺でも同様に使用されているかもしれません。

計算尺に関する記事一覧

当サイトで紹介している計算尺の使い方に関する記事一覧は、カテゴリーの「計算尺 / Slide rule」のほか「計算尺の使い方」まとめページでご覧いただけます。

(2020年8月20日 一部修正)

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