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微小角度での sin と tan の計算
微小角度では \( \sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta \) ラジアン と近似できることが知られています。計算尺ではこの性質を利用して \(6^\circ\) 未満の \( \sin \) と \( \tan\)、並びに \(84^\circ\) 以上の \( \cos \) の計算をします。
計算の方法は2種類あります。ひとつは「ST 尺」という目盛りを使う方法です。もうひとつはゲージマークを使う方法です。
以下順番に紹介します。
ST 尺を用いた計算
「ST 尺」は角度がおおよそ \(0^\circ 40’\) から \(6^\circ\) までの \( \sin \) と \( \tan\) の計算に使う目盛りです。また、「cos の計算(0°~84°)」でご紹介したように、\( \cos \) の計算では \( \cos \theta = \sin (90^\circ – \theta ) \) という公式を使うことから、角度 \(84^\circ\) 以上の \( \cos \) の計算にも使います。
以下、具体例をみていきましょう。
計算例1 \( \sin 1^\circ 12′ \)
(1)計算ではST 尺とD 尺を使います。はじめにD 尺の基線とST 尺の基線が一致していることを確認します。
(2)ST 尺の \(1^\circ 12’\) にカーソル線を合わせます。
(3)そのままD 尺の目盛りを読み、答の数値として「2.092」を得ます。
(4)位取りをします。
「計算尺での三角関数計算に関する予備知識」にまとめた通り、 ST 尺を使った場合角度 \(6^\circ\) 付近を除いて \( \sin \theta\) は0.01 の位を取ることから、この計算の答は「0.02092」となります。
※補足ですが、\( \tan 1^\circ 12′ \) を計算した場合も同じ答となります。
計算例2 \( \cos 85^\circ 13′ \)
(1)はじめに \( \cos \theta = \sin (90^\circ – \theta ) \) の公式によって \( \cos \) を \( \sin \) に直します。計算尺では引き算ができないので、暗算か筆算で計算します。
\( \cos 85^\circ 13′ = \sin (90^\circ – 85^\circ 13′ ) \)\( = \sin 4^\circ 47′ \) となることから、\( \sin 4^\circ 47′ \) を計算尺で計算します。
(2)D 尺の基線とST 尺の基線が一致していることを確認します。
(3)ST 尺の \(4^\circ 47′ \) にカーソル線を合わせます。
(4)そのままD 尺の目盛りを読み、答の数値として「8.34」を得ます。
(5)位取りをします。
「計算尺での三角関数計算に関する予備知識」の通り、 ST 尺を使った場合角度 \(6^\circ\) 付近を除いて \( \sin \theta\) は0.01 の位を取ることから、この計算の答は「0.0834」となります。
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ゲージマークを用いた計算
微小角度における \( \sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta \) ラジアン という近似式は、\( \sin \theta \) と \(\tan \theta \) が角度 \( \theta \) に比例していることも意味しています。これを利用したのがゲージマーク \( \rho^\circ \)、\( \rho ‘ \)、\( \rho ” \) を用いた \( \sin \) と \( \tan\) の計算になります。
「計算尺での三角関数計算に関する予備知識」でも紹介していますが、この3つのゲージマークはC 尺またはD 尺に振られています。
\( \rho^\circ \) は 1ラジアン \( \approx 57.296^\circ \) より 57.296(有効数字で 5.7296)、\( \rho ‘ \) は 1ラジアン \( \approx 3437.75’ \) より 3437.75(有効数字で 3.43775)、\( \rho ‘’ \) 1ラジアン \( \approx 206265” \) より206265(有効数字で 2.06265)にそれぞれ印がつけられています。
微小角度では\( \sin \theta \) と \(\tan \theta \) が角度 \( \theta \) に比例しているため、
・ \(\sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta^\circ \times\)\( \Large \frac{1}{57.296}\)
・ \(\sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta ‘ \times\)\( \Large \frac{1}{3437.75}\)
・ \(\sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta ” \times\)\( \Large \frac{1}{206265}\)
というようにゲージマークの逆数の掛け算(つまり割り算)をすることで計算をします。
ゲージマークがC 尺とD 尺のどちらについているかで少しだけ計算の手順が異なります。
どちらの場合でも計算操作としてやっていることは同じなのですが、慣れるまではややこしいと思いますので、ここでは両方の場合についてご紹介します。
計算例3-1 \( \tan 3^\circ 51′ \) (ゲージマークがC 尺にある場合)
(1)まず \( 3^\circ 51′ \) をすべて「分」単位に直します。
暗算で、 \( 3^\circ 51′ = (60 \times 3 + 51)’ = 231′ \) と計算できます。
(2)\( 231′ \) に目盛りを合わせるために、D 尺の「2.31」にカーソル線を合わせます。
(3)カーソル線とC 尺の「分」のゲージマーク「\( \rho ‘ \)」が合うように内尺を動かします。
(4)C 尺の基線「10」にカーソル線を合わせると、D 尺上に答として「6.72」を得ます。
(5)位取りをします。「計算尺での三角関数計算に関する予備知識」の「角度 \(6^\circ\) 未満の三角関数 sin と tan の位取りについて」 で紹介している方法で概算をすると、
\( 231′ \approx 0.0003 \times 231\)\(→ 0.0003 \times 200 = 0.06\)
となります。したがってこの計算の答は「0.0672」となります。
補足しますと、この計算は \( 231′ \) に \(1′ = \)\( \Large \frac{1}{3437.75} \) ラジアンを掛ける、つまり \( 231 \div 3437.75 \) を計算していることになります。
計算例3-2 \( \tan 3^\circ 51′ \) (ゲージマークがD 尺にある場合)
(1)はじめにD 尺の「分」のゲージマーク「\( \rho ‘ \)」にカーソル線を合わせます。
(2) \( 3^\circ 51′ \) をすべて「分」単位に直します。
暗算で、 \( 3^\circ 51′ = (60 \times 3 + 51)’ = 231′ \) と計算できます。
(3)\( 231′ \) として、C 尺の「2.31」とカーソル線が合うように内尺を動かします。
(4)D 尺の基線「10」にカーソル線を合わせると、C 尺上に答として「6.72」を得ます。
(5)位取りをします。「計算尺での三角関数計算に関する予備知識」の「角度 \(6^\circ\) 未満の三角関数 sin と tan の位取りについて」 で紹介している方法で概算をすると、
\( 231′ \approx 0.0003 \times 231\)\(→ 0.0003 \times 200 = 0.06\)
となります。したがってこの計算の答は「0.0672」となります。
やっていること自体は「計算例3-1」と同じで、C 尺とD 尺を使った内尺法による \( 231 \div 3437.75 \) の割り算です。ただし割り算の計算方法で紹介した場合とは違い、C 尺とD 尺を逆に使わなくてはいけないので少し操作手順が変わります。慣れるまでは気を付けましょう。
計算例4-1 \( \cos 84.68^\circ \) (ゲージマークがC 尺にある場合)
(1)はじめに \( \cos \theta = \sin (90^\circ – \theta ) \) の公式によって \( \cos \) を \( \sin \) に直します。計算尺では引き算ができないので、暗算か筆算で計算します。
\( \cos 84.68^\circ = \sin (90^\circ – 84.68^\circ ) \)\( = \sin 5.32^\circ \) となることから、\( \sin 5.32^\circ \) を計算尺で計算します。
(2)\( 5.32^\circ \) に目盛りを合わせるために、D 尺の「5.32」にカーソル線を合わせます。
(3)カーソル線とC 尺の「度」のゲージマーク「\( \rho^\circ \)」が合うように内尺を動かします。
(4)C 尺の基線「10」にカーソル線を合わせると、D 尺上に答として「9.28」を得ます。
(5)位取りをします。「計算尺での三角関数計算に関する予備知識」の「角度 \(6^\circ\) 未満の三角関数 sin と tan の位取りについて」 で紹介している方法で概算をすると、
\( 5.32^\circ \approx 0.02 \times 5.32\)\(→ 0.02 \times 5 = 0.1\)
となります。したがってこの計算の答は 0.1 前後ということで「0.0928」となります。
ゲージマークを使って計算する場合は、「度」「分」「秒」のうち使いやすいものを選んで計算できます。角度の小数点以下を「分」に直さなくても「度」のゲージマーク「\( \rho^\circ \)」を使うことで直接計算できます。
計算例4-2 \( \cos 84.68^\circ \) (ゲージマークがD 尺にある場合)
(1)はじめに \( \cos \theta = \sin (90^\circ – \theta ) \) の公式によって \( \cos \) を \( \sin \) に直します。計算尺では引き算ができないので、暗算か筆算で計算します。
\( \cos 84.68^\circ = \sin (90^\circ – 84.68^\circ ) \)\( = \sin 5.32^\circ \) となることから、\( \sin 5.32^\circ \) を計算尺で計算します。
(2)D 尺の「度」のゲージマーク「\( \rho^\circ \)」にカーソル線を合わせます。
(3)\( 5.32^\circ \) として、C 尺の「5.32」とカーソル線が合うように内尺を動かします。
(4)D 尺の基線「10」にカーソル線を合わせると、C 尺上に答として「9.28」を得ます。
(5)位取りをします。「計算尺での三角関数計算に関する予備知識」の「角度 \(6^\circ\) 未満の三角関数 sin と tan の位取りについて」 で紹介している方法で概算をすると、
\( 5.32^\circ \approx 0.02 \times 5.32\)\(→ 0.02 \times 5 = 0.1\)
となります。したがってこの計算の答は 0.1 前後ということで「0.0928」となります。
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ゲージマークは角度何度まで使えるか?
ゲージマークを使うことで、微小角度の三角関数の計算が割り算の操作で計算できます。
これはとても便利に感じますが、あくまで \( \sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta \) ラジアン の近似式が成り立つ微小角度でしか使えません。
では、この「微小角度」とは具体的にどれくらいでしょうか。
次の図は \( \theta \) ラジアン、\( \sin \theta\)、\( \tan \theta\) の関係を Microsoft Excel で図示したものです。ご覧いただくと、角度が大きくなればなるほど\( \sin \theta\)、\( \tan \theta\) と \( \theta \) ラジアンとのずれが大きくなることがわかります。
一方で、角度\( 10^\circ \) くらいまでは上述の近似式が成り立っているようにも見えます。そこで、この図を角度\( 4^\circ \) から\( 10^\circ \) まで拡大してみます。
\( 4^\circ \) 、\( 6^\circ \) 、\( 8^\circ \) 、\( 10^\circ \) についてはそれぞれ具体的な計算値も図中に示しました。ここでそれぞれの角度における \( \theta \) ラジアンと\( \sin \theta\)、\( \tan \theta\) の値の違いをパーセントで表すと、
・\( 6^\circ \) の場合\( \sin \theta\) が -0.19 %、\( \tan \theta\) が +0.38 %
・\( 8^\circ \) の場合\( \sin \theta\) が -0.29 %、\( \tan \theta\) が +0.64 %
・\( 10^\circ \) の場合\( \sin \theta\) が -0.52 %、\( \tan \theta\) が +1.03 %
となります。そのため、数パーセントの誤差を許容するのであれば、角度\( 10^\circ \) まではゲージマークを使ってもよいように見えます。
一方で「計算尺の相対誤差」で紹介したとおり、計算尺の計算では許容される相対誤差の目安があります。ご覧いただくとわかるように、2つの数の計算では相対誤差の目安は 0.28% 以内です。
また、この相対誤差は目盛りの読み取りや内尺の操作によって生じる誤差を想定しています。一方で上記に示したゲージマークを使って計算した場合の誤差は、数学上必ず発生してしまう誤差になります。
以上を総合して考えますと、ゲージマークでの計算は角度\( 6^\circ \) 以下の場合に限って使うのが望ましいと思います。
「数パーセントの誤差が生じてしまうのを許容すること」と「必ず数パーセントの誤差が発生してしまうこと」には大きな違いがあり、後者は避けるべきです。
計算尺に関する記事一覧
当サイトで紹介している計算尺の使い方に関する記事一覧は、カテゴリーの「計算尺 / Slide rule」のほか「計算尺の使い方」まとめページでご覧いただけます。