LL尺が無い場合の aの b乗の計算【計算尺の使い方40】


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「計算尺の使い方」まとめ

LL尺がない計算尺

今でも小学校でそろばんの使い方を一度は教わるように、当サイトの管理人の父の世代、1960年代に中学生だった世代までは、中学校で計算尺の使い方を勉強したそうです。
(1970年を過ぎて中学生だった母は、計算尺を授業で習ったことはなかったそうです。)

以下の写真は、管理人の父と伯父が中学生の時に使用していた計算尺です。
上はヘンミ45K、下はフジ88-D という計算尺です。
どちらも片面(内尺だけ裏表あり)で、ヘンミ45K は竹製です。

比較的小型で持ち歩きやすい利点もありますが、目盛りを拡大してみると LL尺がないことがわかります。
下の写真では、左と右で内尺の裏表をひっくり返していますが、どちらにも LL尺がありません。

このような計算尺でも、手間はかかりますが指数の計算ができます。

計算の原理

既に「aの -b乗の計算」でも「方法3 LL尺がない場合」で -b 乗(負の乗数)の場合の計算方法を紹介していますが、改めて計算の原理と流れを説明します。

a の b 乗を計算したいとき、はじめに下式の対数の性質を使ってa の b 乗の常用対数を求めます。
$$ \log_{10}{a^{b}} = b \log_{10}a $$

実際の計算の流れとしては、
① \( \log_{10}a \) を計算尺で求める。
② ①の結果に b を掛ける。
常用対数の計算は「常用対数 log_10 の計算」も参照してください。

その後
③ 10の \( \log_{10}{a^{b}} \) 乗を計算して答を得ます。
10の指数は「常用対数の真数を求める計算(10 の指数計算)」で計算します。

ただし、計算尺を3回も操作することでどうしても誤差が拡大してしまいます。
そのため、LL尺を用いた場合と比べると、本来の答よりも誤差が大きい答を得ることになってしまいます。

また、4乗、5乗・・・と指数が大きくなればなるほど、あるいは指数を計算する元の数が大きいほど、誤差も大きくなってしまいます。
「計算尺の目盛りと基本操作」で紹介した計算尺の相対誤差よりもはるかに誤差が拡大する場合もあります。
ここでは計算結果が本来の答と大きく異なってしまう誤差が大きい計算例も紹介します。

基本的には、指数の値(b の数値)が 1に近く、指数を計算する元の数(a の数値)も 100を超えないような場合に使える方法であることを認識しておきましょう。

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計算例1 28.7の 1.3乗

はじめに \(28.7^{1.3}\) の常用対数を \( \log_{10}{28.7^{1.3}} = 1.3 \log_{10}28.7 \) と変形して計算します。
次に10の \( \log_{10}{28.7^{1.3}} \) 乗を計算することで答を得ます。

(1)\( \log_{10}{28.7^{1.3}} = 1.3 \log_{10}28.7 \) を計算するために、\( \log_{10}28.7 \) を計算します。
28.7として、D尺(円計算尺では C尺)の「2.87」にカーソル線を合わせて、そのまま L尺を見ると \( \log_{10}28.7 \) の答の小数点部分「0.458」を得ます。
\( \log_{10}{28.7} = \log_{10}{10 \times 2.87} \)\( = 1 + \log_{10}{28.7} \) なので、\( \log_{10}28.7 \) は 1.458 だとわかります。

(2)(1)で得た答を 1.3倍します。
D尺の「1.458」にカーソル線を合わせ(図の①)、CI尺の「1.3」とカーソル線が合うように内尺を動かします(図の②)。

(3)CI尺の右基線「1」にカーソル線を合わせると、D尺上に答の「1.896」が出ます。
概算で位取りをすると、\(1.458 \times 1.3 \rightarrow 1 \times 1 \)\( = 1\) なので、\( \log_{10}{28.7^{1.3}} \) は「1.896」であることがわかります。

(4)10の 1.896乗を計算します。
計算したい数を整数部分と0 以上1 未満の小数部分に分けます。
1.896 の場合、\( 1.896 = 1 + 0.896 \) となるので、計算尺では 0.896 の部分を計算します。
L尺の「0.896」にカーソル線を合わせてそのまま D尺(円計算尺では C尺)の目盛りを読むと「7.87」を得ます。

(5)位取りをします。
(4)より \(10^{0.896}=7.87\) だとわかりました。よって、
\(10^{1.896} = 10^{1+0.896}\)\(= 10^{1}\times 10^{0.896}\)\(= 10 \times 7.87 = 78.7\) です。
よって、この計算の答は「78.7」だとわかります。

※この計算の実際の答は\(78.568\cdots\) です。

計算例2 46.2の 0.78乗

はじめに \(46.2^{0.78}\) の常用対数を \( \log_{10}{46.2^{0.78}} = 0.78 \log_{10}46.2 \) と変形して計算します。
次に10の \( \log_{10}{46.2^{0.78}} \) 乗を計算することで答を得ます。

(1)\( \log_{10}{46.2^{0.78}} = 0.78 \log_{10}46.2 \) を計算するために、\( \log_{10}46.2 \) を計算します。
46.2として、D尺(円計算尺では C尺)の「4.62」にカーソル線を合わせて、そのまま L尺を見ると \( \log_{10}46.2 \) の答の小数点部分「0.664」を得ます。
\( \log_{10}{46.2} = \log_{10}{10 \times 4.62} \)\( = 1 + \log_{10}{4.62} \) なので、\( \log_{10}46.2 \) は 1.664 だとわかります。

(2)(1)で得た答を 0.78倍します。
D尺の「1.664」にカーソル線を合わせ(図の①)、0.78としてCI尺の「7.8」とカーソル線が合うように内尺を動かします(図の②)。

(3)CI尺の右基線「1」にカーソル線を合わせると、D尺上に答の「1.298」が出ます。
概算で位取りをすると、\(1.664 \times 0.78 \rightarrow 2 \times 1 \)\( = 2\) なので、\( \log_{10}{46.2^{0.78}} \) は「1.298」であることがわかります。

(4)10の 1.298乗を計算します。
計算したい数を整数部分と0 以上1 未満の小数部分に分けます。
1.298 の場合、\( 1.298 = 1 + 0.298 \) となるので、計算尺では 0.298 の部分を計算します。
L尺の「0.298」にカーソル線を合わせてそのまま D尺(円計算尺では C尺)の目盛りを読むと「1.988」を得ます。

(5)位取りをします。
(4)より \(10^{0.298}=1.988\) だとわかりました。よって、
\(10^{1.298} = 10^{1+0.298}\)\(= 10^{1}\times 10^{0.298}\)\(= 10 \times 1.988 = 19.88\) です。
よって、この計算の答は「19.88」だとわかります。

※この計算の実際の答は\(19.880\cdots\) です。

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誤差が大きくなる計算例

LL尺を使わないと、以下の場合に誤差が大きくなります。
(1)指数が大きい
(2)指数を計算する元の数が大きい

それぞれ、具体例を考えてみましょう

誤差が大きい計算例1 150の 1.3乗

このページの計算例1のでは28.7を 1.3乗しました。
この計算でも、本来の答 \(78.568\cdots\) に対して 78.7 というやや大きな答を得てしまいました。
それでも本来の答に対する相対誤差は 0.2% 未満なので、計算尺の計算結果としては許容範囲内です。
それでは 150を 1.3乗するとどうなるでしょうか。

これまでと同様、はじめに \(150^{1.3}\) の常用対数を \( \log_{10}{150^{1.3}} = 1.3 \log_{10}150 \) と変形して計算します。
次に10の \( \log_{10}{150^{1.3}} \) 乗を計算することで答を得ます。

(1)\( \log_{10}{150^{1.3}} = 1.3 \log_{10}150 \) を計算するために、\( \log_{10}150 \) を計算します。
150として、D尺(円計算尺では C尺)の「1.50」にカーソル線を合わせて、そのまま L尺を見ると \( \log_{10}1.50 \) の答の小数点部分「0.176」を得ます。
\( \log_{10}{150} = \log_{10}{100 \times 1.50} \)\( = 2 + \log_{10}{1.50} \) なので、\( \log_{10}150 \) は 2.176 だとわかります。

(2)(1)で得た答を 1.3倍します。
D尺の「2.176」にカーソル線を合わせ(図の①)、CI尺の「1.3」とカーソル線が合うように内尺を動かします(図の②)。

(3)CI尺の右基線「1」にカーソル線を合わせると、D尺上に答の「2.825」が出ます。
概算で位取りをすると、\(2.176 \times 1.3 \rightarrow 2 \times 1 \)\( = 2\) なので、\( \log_{10}{150^{1.3}} \) は「2.825」となります。

(4)10の 2.825乗を計算します。
計算したい数を整数部分と0 以上1 未満の小数部分に分けます。
2.825 の場合、\( 2.825 = 2 + 0.825 \) となるので、計算尺では 0.825 の部分を計算します。
L尺の「0.825」にカーソル線を合わせてそのまま D尺(円計算尺では C尺)の目盛りを読むと「6.68」を得ます。

(5)位取りをします。
(4)より \(10^{0.825}=6.68\) だとわかりました。よって、
\(10^{2.825} = 10^{2+0.825}\)\(= 10^{2}\times 10^{0.825}\)\(= 100 \times 6.68 = 668\) です。
よって、この計算の答として「668」を得ます。

しかし実際の答は \(674.40\cdots\) です。
本来の答に対する相対誤差は約1% なので、計算尺による計算結果としては誤差が大きくなってしまいました。

誤差が大きい計算例2 1.02の 250乗

「LL尺の目盛りの選択」の「10を超える乗数の計算」の中で紹介した 1.02の 250乗を計算してみましょう。
実際の答 \(141.267\cdots\) に対して、LL尺を使った場合 141.5 という答を得ました。
では、LL尺を使わないとどうなるでしょうか。

計算の流れはこれまでと全く同じです。
はじめに \(1.02^{250}\) の常用対数を \( \log_{10}{1.02^{250}} = 250 \log_{10}1.02 \) と変形して計算します。
次に10の \( \log_{10}{1.02^{250}} \) 乗を計算することで答を得ます。

(1)\( \log_{10}{1.02^{250}} = 250 \log_{10}1.02 \) を計算するために、\( \log_{10}1.02 \) を計算します。
D尺(円計算尺では C尺)の「1.02」にカーソル線を合わせて、そのまま L尺を見ると \( \log_{10}1.02 \) の答の小数点部分「0.008」を得ます。
1より大きく10未満の数字の常用対数なので、0.008 が \( \log_{10}1.02 \) の答です。

(2)(1)で得た答を 250倍します。
0.008として D尺の「8.0」にカーソル線を合わせ(図の①)、250として CI尺の「2.5」とカーソル線が合うように内尺を動かします(図の②)。

(3)CI尺の左基線「10」にカーソル線を合わせると、D尺上に答の「2.0」が出ます。
概算で位取りをすると、\(0.008 \times 250 \rightarrow 0.01 \times 200 \)\( = 2\) なので、\( \log_{10}{1.02^{250}} \) は「2.0」となります。

(4)10の 2.0乗を計算します。
計算したい数を整数部分と0 以上1 未満の小数部分に分けるのですが、そもそも小数点部分が 0なので 10の 2乗を暗算します。
\(10^2 = 100\) なので、この計算の答として「100」を得ます。

しかし実際の答は \(141.267\cdots\) です。
答のオーダー(桁数)としては 100 で正しいですが、計算結果としては実用的ではありません。

指数の性質として、わずかな値の違いが計算する度に拡大してしまいます。
LL尺を使わないと、はじめに常用対数を計算し、最後に10の指数を計算することになりました。
この 2回分の目盛りの読みのわずかな違いが、結果的に大きな誤差につながっていきます。

冒頭でも書きましたが、LL尺を使わない指数の計算は基本的に指数の値が 1に近く、かつ指数を計算する元の数も 100を超えないような場合に使える方法であることは覚えておきましょう。

計算尺に関する記事一覧

当サイトで紹介している計算尺の使い方に関する記事一覧は、カテゴリーの「計算尺 / Slide rule」のほか「計算尺の使い方」まとめページでご覧いただけます。

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